ビラの文面
今年1月に埼玉県八潮市で起きた道路陥没事故を受けて、3月市議会では下水道管の安全対策について質問が行われた。市が管理する主要な下水道管は緊急点検により安全性が確認されている。国交省によると、下水道管に起因する道路陥没は22年度に2607件発生している。全国約49万kmの下水管中、耐用年数50年を超える管は22年度には約3万kmだが、今後急速に増加し、20年後には約20万kmにもなる。大規模事故が起きれば市民生活に深刻な影響が生じる。コスト削減を図りながら、効果的な点検・調査・維持管理が求められる。
3月市議会では、今年(2025年)１月に埼玉県八潮市で起きた道路陥没事故に関連した質問が、公明党、自由民主党・無所属の会、大阪維新の会(以上、代表質問)、そして個人質問で池田議員(日本共産党)から行われた。
県道の交差点で発生したこの事故の原因は、地下10mにある口径4.75mの下水道管（流域下水道）の破損である。下水道管の破損は、下水から発生した硫化水素が空気に触れて硫酸になり、管を溶かしたことなどによる。さらに、漏れた水により土砂が削られて下水道管に流れ出して空洞ができたことにより、大規模な陥没が起こった。周辺9市・3町、約120万人に対して下水道の使用制限が発令された。
事故発生から3ヵ月たって、ようやくバイパス管が完成し、そこへ元の下水道管内の水をう回させている。水位が下がり、転落した運転手の捜索活動が行われ、５月２日にようやく遺体が確認された。県の計画では、本格的な復旧には5年から7年ほどかかるという。
市の緊急点検
八潮市の事故を受けて、市は主要な下水道管の緊急点検を実施し、安全性を確認したと答弁した。対象は市が管理する下水道管であり、公共下水道と言われる。八潮市で破損した下水道は流域下水道と言われるもので、複数の市町村から出る下水を処理するもので埼玉県が管理する。松原市には大阪府が管理する流域下水道が流れている。松原市は「大和川下流西部流域下水道」区域にあり、8市が対象である。
点検方法について市は、下水管内に入り、口径80cm以上は目視で、80cm未満はテレビカメラで調査を行ったということである。点検の頻度については、国の指針に基づき2021年度から幹線管路と硫化水素による腐食の恐れがある管路については5年に1度であると答弁している。5年に1度の点検だと安心できるかというと、決してそうとは言えない。八潮市の破損個所は埼玉県が2021年度に定期調査を行っていた。内部にドローンを入れて撮影した映像から、管に穴が空いていないか、鉄筋がむき出しになっていないかなど腐食の状況を確認し、直ちに補修の必要性はないと判断されていた。悪条件が重なれば5年内に急速に劣化が進むことがあるのだ。
耐用年数超えが急増する
国土交通省によると、下水道管が原因で発生した道路の陥没事故は2022年度の1年間に全国でおよそ2600件ある。ほとんどは50cm未満の規模の小さなものだが、100cmを超えるような陥没も2％起きている。陥没の原因の多くが老朽化である。老朽化対策は全国的に遅れていて、年間の更新率はわずか0.6％に過ぎない。このペースだと、更新がすべて終わるのに150年以上かかるという試算もあるという。
同じく国土交通省によると、2023年度末における、全国の下水道管渠の総延長は約50万km。このうち標準耐用年数50年を経過した管渠の延長約4万km（総延長の約7％）だが、10年後（2033年度末）は約10万km（約20％）に、20年後（2043年度末）は約21万km（約42％）にと今後は急速に増加する。これは1990年代に下水道が急ピッチで建設されたことによる。
下水道管の損傷が原因の道路陥没発生件数は、敷設後の経過年数が40年を超える頃から増加し、下水道管の耐用年数とされる50年を過ぎると急増する。2022年度の1年間で下水道管が原因で起こった道路陥没は、敷設後41～45年だと延長1000km当たり8件であるが、敷設後51～55年では37件と大幅に増加している。本気で対策を取らないと、10年後、20年後には八潮市で起きたような事故が頻発することになるだろう。
空洞化調査
2016年のJR博多駅前大通りでの陥没事故を受けて、18年度から3年間空洞調査を行っている。18年3月議会で「18年度は、国道や府道につながる人や車両の往来が多い路線、また災害時の避難経路となる本市の幹線道路など、陥没による事故が発生すると多大な影響が予想される路線を優先して調査を実施する。具体的には、道路幅員が比較的広く、主要な市道である我堂一津屋線や新堂南線など約10kmを調査する。」と答弁している。25年3月議会では3年間の調査結果として、「市内の主要道路24kmを調査し空洞4ケ所を補修した」と答弁している。
18年3月議会で調査方法について「レーダー探査による調査は、路面下に発生した空洞による陥没事故を未然に防ぐための有効な手法である」と市長が答弁している。マイクロ波を地面に当てる機器を搭載した車が道路を走り、空洞を検知する手法である。ただし地下2mよりも深い場所の空洞は検知できないとされていて、有効ではあっても万全とは言えない。
抜本的な解決策は?
抜本的な解決策があるとすれば、それは老朽化した下水道管を新しく管に取り換えることである。だが八潮市の事故で明らかなように、短距離のバイパス管を作るだけでも3ケ月もかかっている。その間、多くの住民が日常生活に多大な不便を強いられた。管の更新は事実上たいへん困難である。老朽化した道路の補修とは次元が異なっている。新規建設時に将来のことを全く考えず、「とにかく作ればよい。老朽化するころには私は退職しているので責任を問われることはない」とでも思っていたのだろうか。
「SPR工法」という手法が用いられている。これは下水道管の内部に、らせん状に新たな下水道管の壁を少しずつ作るというもの。下水道を止めずに工事が進められ、周辺住民への影響を軽減できるというメリットがあり、地面を掘る必要がないので下水道管を取り替えるより工期が短い。
確かに寿命を延ばすことはできそうだ。だが一時的な補強に過ぎない。元の管は延命できても、いつの日か崩れる。私たちの日常生活を支えるインフラを確実に機能させるためには、必要な資金と人を投入する必要がある。
ストックマネジメント
市は「ストックマネジメントに基づき、点検・調査を行っている」と答弁している。国土交通省は下水道事業におけるストックマネジメントを、「下水道事業の役割を踏まえ、持続可能な下水道事業の実施を図るため、明確な目標を定め、膨大な施設の状況を客観的に把握、評価し、把握しながら、長期的な施設の状態を予測しながら、下水道施設を計画的かつ効率的に管理すること」と定義している。もう少し具体的に言うと、ポンプ場や下水道管といった施設ごとに５年程度の短期的な改築ではなく、下水道事業全体を把握して、中長期的な視点から優先順位をつけ、費用を(年度ごとに異なるのではなく)平均化し低減するというものである。
もっともらしい方法に思われるが、「効率的」「優先順位」「費用低減」という言葉は、「少ない予算を上手にやりくりして使えよ」と言っているかのようだ。耐用年数超過の下水道管が予算不足で点検・改修できず、道路陥没等の事故を発生させているのが現状である。今後さらに深刻な事態が待ち受けている。国は上から目線で「下水道をしっかり管理しろ」と言う前に、国が地方自治体に下水道維持管理経費を十分に補助し、技術援助すべきである。
ストックマネジメントに基づき維持管理するために、市は民間に業務委託を行っている。このことは専門技術・知識を持つ職員が不足している、あるいは、不在であることを示している。公務員定数が削減される中で、松原市程度の規模の自治体にとって専門職職員を確保するのは厳しいという現実があるのかもしれないが、委託料を支払って作成された維持管理計画が、下水道施設を計画的かつ効率的に管理できる内容としてふさわしいのか否かを、はたして市が判断できるのだろうかと心配である。決して委託先任せになってはならない。市職員が専門知識と技術をしっかりと習得し、継承することが必要である。そのためには国が技術援助と財政的支援を惜しんではならない。