ビラの文面(2024年6月～8月配布)
3月市議会で有機フッ素化合物(PFAS)汚染について質問が行われた。「市内を流れる河川の調査結果は国の暫定指針値以下だ」と市は答弁したが、日本の指針値は欧米の基準と比べてたいへん甘い。PFASは多くの生活用品や工業製品に使われてきたが、分解されにくく、体内から長期間排出されない。発がん性が明らかなPFOAや疑われるPFOSは製造が禁止されているが、半導体や電気自動車の製造には新しいPFASが使われている。健康被害が明らかになってからでは手遅れである。命と健康を守るため、厳しい環境基準値を設定すべきだ。
3月市議会で「大阪の有機フッ素汚染と住民の健康保持について」と題して植松議員(日本共産党)が質問を行った。
市内河川の調査結果
松原市内の汚染実態について市は「R3年度及びR4年度の水質調査では、市内の大和川が32ナノグラム／ℓ、西除川が28ナノグラム／ℓ、東除川が19ナノグラム／ℓとなっている。国の指針値50ナノグラム／ℓを下回っている」と答弁した。ナノグラム(ng)=10億分の1グラム。調査地点は東除川と大和川との合流地点近くの明治小橋、西除川と大和川との合流地点だと思われる。
参考…ミリグラム=1000分の1グラム
マイクログラム=100万分の1グラム
ピコグラム=1兆分の1グラム
答弁では続けて「今後、国や大阪府の動向を注視していきます」と述べている。「動向を注視する」というのは答弁でよく使われる言葉で、要するに「様子見をするだけで何もやらない」
ということである。
疑わしきは規制する
50ng／ℓは大甘の数値である。水俣病は有機水銀の排出が原因の公害病である。工場排水が原因である疑いが濃いにもかかわらず、国は「病気と排水との間に確かな因果関係が認められない」ことを理由に対策を怠り、さらに多くの被害者を生み出した。
「疑わしきは罰せず」は刑事訴訟法の原則である。怪しいというだけで証拠もなく逮捕され裁判にかけられることで冤罪が生み出される。だが警察は疑わしい人物をマークすることになり、犯罪の再発を防止することになる。
「疑わしきは罰せず」を公害問題に適用することは誤りである。「疑わしきは規制する」ことを原則としなければならない。一件の刑事事件と比べて公害の被害ははるかに大きく、場合によっては全国民が被害者となる恐れがある。因果関係が明白になるまで待つことは決してできない。
日本の指針値は大甘
指針値50ng／ℓというのは、2020年に環境省が定めた暫定指針値PFOS＋PFOA ＜50ng／ℓ のことである。PFOSとPFOAの合計が50ng／ℓ
以下ということ。だがアメリカやヨーロッパでは20ng／ℓ を基準としている。さらに米国EPA(環境保護庁)は法的拘束力のある基準値としてPFOA,
PFOSとも４ng／ℓを提案している。20ng／ℓ基準に照らすと、大和川32 ng／ℓ と西除川28 ng／ℓは基準超で、東除川19 ng／ℓはぎりぎり基準内ということになる。
内閣府の食品安全委員会は、今年2024年2月、PFOSとPFOAの耐容1日摂取量（毎日摂取し続けても安全とされる量）をそれぞれ20ng／体重kg／日という案を出している。この値は、米国EPA（環境保護庁）案や、EFSA（欧州食品安全機関）の基準値と比較して、非常に高いものである。水道水の基準値が、この耐容1日摂取量を超えないように定められることになると、極めて危険である。
毒性があるのは2種類だけ?
PFASは有機フッ素化合物の総称で10000種類以上ある。
Per fluoro alkyl Substnces (ベルフルオロアルキル物質)
の頭文字をとったもの。
炭素にフッ素等が結合している。分子数や結合の仕方が変わると異なる種類になる。昨年調べたときには約4,700種類と書かれていたのだが、今では10,000種類となっている。新種が次々と作り出されているが、1年で5,000種類も増えるとは思えない。分類方法が変わり、これまでPFASに含まれていなかったものを、PFASに含めるようになったのか?
PFASのうち製造が禁止されているのはPFOSとPFOAの2種類だけ。
PFOS = ペリフルオロ オクタンスルホン酸。
骨格となる炭素数は8。これにフッ素が17、酸素が2、硫黄が1、OHが1 結合している。
PFOA = ペリフルオロ オクタン酸。
骨格となる炭素数は8。これにフッ素が15、酸素が1、OHが1 結合している。
PFASは自然の物質ではなく、人工的に作り出したもの。分子の結合の仕方をちょっと変えただけで新しい物質ができる。PFOSとPFOAは多量に使用されてきたので毒性が明らかになってきた。PFOSとPFOAを使えないので代替品が盛んに使われている、あるいは新たに作られている。代替品がPFASの1種であれば、水や油をはじく、熱に強い、薬品に強い、光を吸収しない等の性質を持つと思われる。だが炭素にフッ素が結合したものであれば、同様の毒性があるのではないかと心配になる。
半導体を巡る国際競争は激しさを増しているが、PFASは半導体の基板に塗る感光材に使われている。ヨーロッパではPFOS・PFOAだけに限らず、すべてのPFASの製造や使用の段階的廃止が議論されていて、2020年代後半にも規制が強化される可能性がある。PFASを使った製品をヨーロッパに輸出できなくなるという危機感を感じた日本企業が、規制に反対する動きをしている。その一方で、半導体向けの材料としてPFASを使わない界面活性剤の開発がされている。規制を阻むのではなく、規制を商機ととらえて安全な素材の開発をすべきである。
健康への影響
PFOSとPFOAは多量に、かつ長期間使用されたので、腎臓がん発症や胎児・乳児の成長阻害、コレステロール値上昇、抗体反応低下などの健康被害が明らかになった。
欧州環境機関によると、胎児の出生後への影響として、確実性が高い影響は、低出生体重、ワクチンに対する反応の低下、低出生体重がある。確実性が中程度の影響は、肥満、精子数と運動能力の減少、流産リスクの増加、性的成熟の早期化がある。
大人への影響として、確実性が高い影響は、甲状腺疾患、高ステロール血症、肝障害、腎臓がん、精巣がんがある。確実性が中程度の影響は、乳がん、潰瘍性大腸炎、妊娠しにくくなること、妊娠性高血症がある。
PFASをいったん摂取すると、体内から排出されるまでにたいへん長期間かかる。もしPFAS摂取をとめても、体内にある量の半分を排出する時間(生物学的半減期という)は、PFOSは5年、PFOAは3年を要する。4分の1に減るのは、PFOSは10年、PFOAは6年であり、年月が経てば徐々に減るが100年経過しても完全にゼロにはならない。
半減期が長い理由は、●腎臓からの排出が悪いこと、●肝臓から胆汁に排出されたものが腸管で再吸収されること(腸肝循環)である。その結果、肝臓や腎臓などに蓄積して、肝障害、腎臓がんなどを引き起こす。
PFAS中、使用頻度が少ない物質、あるいは誕生したばかりの物質はどんな影響を及ぼすのかわからない。人体に蓄積されてもすぐに病気になるわけではない。アスベストを吸い込んでから中脾腫を発症するまでに何10年もかかるが、それに似ているようだ。PFAS
は10000種類以上のとんでもない多くの種類があり、そのすべての種類の影響を長期にわたって追跡調査することは可能なのか?
汚染の新たな原因
在日米軍基地の泡消火剤の漏出やPFASを使用する工場からの廃液が汚染の原因だと思ってきた。ところが岡山在住の友人からの連絡で異なる原因による漏出を知ることとなった。
岡山県吉備中央町の円城浄水場でPFASが検出され、原因を調べたところ、浄水場の水源近くの資材置き場に置かれていたフレコンバッグという大型梱包袋に行きついた。約300個の袋の一つからは１リットル当たり450万ナノグラムのPFASが確認された。国の暫定目標値=50ng/ℓの９万倍という超高濃度汚染である。浄水場に流れ込む沢の最上流部では、62000
ng/ℓのPFASが確認された。国の暫定目標値の1240倍に当たる。これらがわかったのは昨年2023年秋のことである。
わが国で水道水のPFAS汚染が明らかになった初めての事例である。発覚するまでの間、住民は何も知らずに汚染水を飲み続けていたのである。
この袋には、活性炭の再利用を手がける企業が全国の企業などから引き取った使用済み活性炭が入っている。野ざらし状態にされているうちに、吸着していたPFASが漏出したのである。
23年11月に吉備中央町の住民27名の血液検査が行われた。その結果は平均値でPFOSが9.9 ng/mℓ、PFOAが171.2 ng/mℓである。環境省が2021年に119名の血液検査を行った平均値はPFOSが3.5
ng/mℓ、PFOAが2.2 ng/mℓであり、比較すると特にPFOAは約80倍にもなっている。
アメリカガイダンスの基準では、
2 ng/mℓ 未満：健康影響はない。
2 ng/mℓ以上～20 ng/mℓ 未満：感受性の高い集団(妊婦など)では悪影響の可能性がある。
20 ng/mℓ以上：脂質代謝異常の検査、甲状腺ホルモンの検査、腎がんの徴候や症状の確認、精巣がんや潰瘍性大腸炎の症状の評価を勧める。
とされている。
検査を受けた27名全員がこの基準を超えている。
全国で深刻な汚染が明らかになっているが、岡山の事例のように、米軍基地からの漏出や工場排水以外の原因がありうることを考えると、調査が進むと更なる汚染実態が判明するのではないかと心配になる。
24年6月12日、NHKテレビ「クローズアップ現代」で吉備中央町の水道水汚染が取り上げられた。その中で血液検査を受けた住民27名に対する健康についてのアンケートが紹介された。それによると、●脂質異常症 10人、●肝機能に問題 4人、●腎機能に問題 3人、●流産 3人、である。これらの症状がPFASに起因するとは現時点では断定できないが、これまでに得られている知見に照らし合わせると、かなりの確率でその可能性が高いと言える。
この記事を読まれた方は下記の記事も読まれています。